90'sエモを語るに置いて、特にUSシカゴ周辺のエモシーンを語るなら外してはいけない、シカゴ州イリノイの中にある都市シャンペーンのバンドに特化してリリースしていたMUD rec.の中核をBRAID(POLYVINYL移籍前まで)等と担っていた知名度こそ低いものの間違い無くエモヒストリーを刻んだ作品を出した「CASTOR」の全音源をコンプした作品が遂にヴァイナルリリース。同郷HUMともシンクロするスペーシーオルタナにBRAIDにも通じるトリッキーエモ要素を足したような独自の方向性が生粋のエモサウンドのファンには当時若干敬遠されましたが、時を経てエモが多様化していき時代が彼らに追いついてまさにこのタイミングでの再評価リリースとなります、再発元はHUMのMatt Talbot主催のEARTH ANALOGより。
メンバーの核Vo/GrのJeff Garberは短命エモバンドDAYS IN DECEMBERを経てCASTORを結成、解散後にNATIONAL SKYLINEへ派生、NATIONAL SKYLINEはよりエレクトリックでアトモスフェリックなエモサウンドで音楽遍歴を色濃くし、更にFAILUREのKen AndrewsやSHINERのTim DowとYEAR OF THE RABBITも2000年代初頭に結成するなどエモの新しい形を提唱した貴重な存在でもありました。
1st/st(95年)、2nd/Tracking Sounds Alone(98年)の2枚のアルバムをカップリング(ヴァイナル化は初)、それに加えて7"/Carnival(97年)、VA/Repousse and Silent Type、VA/Cover the Earth: A Mud Records Compilation, Vol. 2(96年)、更に完全未発曲を追加した計22曲が収録。
1st/stのデビューアルバムは同時期リリースのHUM/You'd Prefer An Astronautとの親和性あるサウンドスタイル、同じAndy Mueller作のアートワークでシカゴ/シャンペーンシーンの充実を物語ります。メジャーフィールドでも起こるスペースオルタナムーブメントをインディー界隈で成立させてしまった確信犯的サウンドが1stの時点で起きており、HUM程に楽曲の緩急は少なく、淡々としながらも練り込んだアンサンブルに際立たせるJeffのヴォーカリゼーションも特性ですがインストパートでも存在感を出す手腕も凄い。
2nd/Tracking Sounds Aloneでその世界観は完成されます。SHINERのベーシストでもあるPaul Malinowskiをプロデュースに迎え、1曲Allen Epleyもゲストvoで参加する、なるほどカンザスシティー/SHINER界隈ともシンクロしていくサウンドが実際ツアーを共に交流も深い点に全てが繋がり納得、よりスペーシー感やダイナミズムが増した楽曲、トリッキーな展開も残しながらエモ界隈へも存在感をアピール、更にJeffのセクシーで伸びの良いヴォーカルも後のNATIONAL SKYLINEの展開も今となっては予感させていました。HUMやFAILUREのようなメジャー感を感じさせないのはSHINERと全く同質で、それが悲しくも知る人ぞ知る&ミュージシャンズofミュージシャンになってしまうのは仕方ないのですが、この佇まいはエモの一つの形であることは間違いないです。
アルバム以外の曲も5曲収録されていて、そしてそれらもCASTOR節でしかない、当時唯一のヴァイナル音源/7"からのCarnival別テイクとMiss Atlanticの2曲の90'sエモの7"に名曲をドロップする定説もやはり実証しています。コンピ曲の2曲も埋もれた侮れない名曲。更に完全未発インスト曲が収録のサプライズもあり。オリジナルのデザインも担当したAndy Muellerの再デザインワークの素晴らしさ、BRAIDのBob NannaやSHINERのAllen Epley、当時のレーベルのディストリビューターでもあるHoncho Overload/Parasol Mail Order/MUD RECORDSのBill Johnsonのライナーノーツもあり。