USコロラド州デンバーが生んだ90年代エモの伝説、「CHRISTIE FRONT DRIVE」が唯一残したオリジナルフルアルバムのDARK OPIRARIVEからの再発盤。本作は1996年5月にシカゴのIdful Musicで録音され、バンド解散後の1997年にCAULFIELD から発表された作品。オリジナル盤は長年廃盤状態が続き、中古市場では軽々と一万円を超える価格で取引されてきた、まさしく90年代エモを象徴するレアアイテムです。今回の再発は、単なるコレクターズアイテムの復刻にとどまらず、この作品が後世へ残した影響を改めて確認するための重要なリイシューといえるでしょう。1993年にデンバーで結成されたCHRISTIE FRONT DRIVEは、Eric Richter、Jason Begin、Kerry McDonald、Ron Marschallによる4人組。活動期間は決して長くありませんでしたが、JIMMY EAT WORLD、BOYS LIFE、SINEATERとのスプリット作品を発表し、当時のUSインディー/エモ・シーンの中心で独自のサウンドを築き上げました。MINERALやSUNNY DAY REAL ESTATEと並べて語られることの多いバンドですが、CHRISTIE FRONT DRIVEはMINERALの結成以前から活動しており、後続のエモバンドが確立していく叙情的なギターサウンドを、いち早く鳴らしていました。ハードコアの切迫感を残しながらも、激しさを前面に押し出すのではなく、余白、反復、静寂、そして抑制された感情によって楽曲を組み立てていく。その音楽性はエモという枠だけでなく、スロウコアやポストロックにも接近する先鋭的なものでした。長いギターのアルペジオから、静かに緊張感を高めていくオープニング「Saturday」。簡潔なメロディの奥に言葉にならない焦燥を閉じ込めた代表曲「Radio」。二本のギターが互いの隙間を埋めるように重なり、終盤へ向けて感情が膨張していく「November」。そして6分を超える時間の中で静寂と爆発を往復する「About Two Days」。曲中で突然サウンドがバーストしても、その感情は外へ開放されることなく、あくまで内側へ、さらに深い場所へと沈み込んでいきます。大声で感情を説明するのではなく、反復するフレーズや声の震え、音と音の間に残された空白によって、聴き手の記憶や感情を静かに刺激する。Eric Richterのヴォーカルも決して技巧的ではありませんが、その頼りなさや抑えきれない揺らぎこそが、この作品に代えがたい生々しさを与えています。轟音へ突入する瞬間にもカタルシスだけを求めず、最後まで内向的で内省的なまま終わっていくところが、CHRISTIE FRONT DRIVEの最大の魅力です。また、ギターを壁のように積み重ねるのではなく、それぞれの音を空間の中へ配置していくような音作りも当時としては非常に先進的。エモの感情性、インディーロックの繊細なメロディ、ポストハードコアの緊張感、そして後のポストロックへつながる構築美が、まだジャンルとして整理される以前の状態で同居しています。現在の耳で聴いても古さを感じさせないどころか、90年代後半以降に無数のバンドが発展させていくサウンドの原型が、すでにここに完成していたことに驚かされます。本作は一般に”Stereo”の通称で親しまれてきましたが、正式にはセルフタイトル作品。今回は”S/T”として再発されています。オリジナル盤のミニマルで象徴的なジャケットデザインを忠実に再現した仕様も素晴らしく、長年オリジナル盤を探していたリスナーはもちろん、MINERAL、TEXAS IS THE REASON、BOYS LIFE、THE PROMISE RING、初期JIMMY EAT WORLD、そして90年代エモ/ポストロックの源流を辿りたいすべての人に手に取ってほしい歴史的名盤です。