USカンザス州出身のエモ/ポストハードコアバンド、「VITREOUS HUMOR」による1995年作EPの再発盤が、ERNEST JENNINGより2022年に発掘リリース。オリジナルはCRANK!からの10インチで、同レーベルの前身であるGEERHEADにも関わっていた彼らは、当時のエモ/ポストハードコアムーブメントの中核に接続する存在でもありました。ミッドウェストエモ黎明期に特有の、ディスコーダントなギターワーク、不規則に折れ曲がるリズム、ローファイで荒削りな録音、そして内省的なリリック...そうした要素が有機的に結びつき、本作はポストハードコアからエモへと移行していく過渡期のサウンドを色濃く刻み込んでいます。単なる粗さではなく、構造そのものが揺らぐような緊張感があり、その不安定さこそが90年代半ばという時代のリアリティを体現しています。オリジナルは10インチ仕様でしたが、今回の再発では12インチへ拡張、A面にそのEP音源を収め、B面には1996年シカゴのFIRESIDE BOWLでのライブテイクを追加収録。数多くのエモ/ポストハードコアバンドが演奏してきたボウリング場という特異な空間での記録は、単なる補遺ではなく、本作のもう一つの核心を成しています。ここで聴けるのは、スタジオ版とは明確に異なる“制御不能なVITREOUS HUMOR”です。テンポは揺らぎ、演奏はほとんど崩壊寸前まで引き延ばされ、ボーカルは切迫したニュアンスを帯びています。飽和したホワイトノイズさえもノイズとしてではなく、その場の空気圧や熱量として機能しており、結果として音源全体がひとつのドキュメントとして立ち上がります。さらに特筆すべきは、リマスタリングを手がけたBob Westonの仕事です。彼の音響感覚は、本来ローファイで埋もれがちな質感を損なうことなく、むしろ各パートの輪郭と空間の奥行きを引き出しています。過度に整えるのではなく、“粗さの意味”を保ったまま再提示するバランス感覚は、この種のエモバンドにおける理想的なサウンドといえるでしょう。総じて本作は、完成された名盤というよりも、エモというフォーマットがまだ定義される以前の“生成の現場”を記録した作品といえます。スタジオ録音とライブという対照的な二面を並置することで、VITREOUS HUMOR というバンドの本質、そしてミッド90’sエモの原初的な衝動と未整理の美しさを捉えた重要なアーカイブとなっています。