韓国のアーティスト MID-AIR THIEF(공중도둑)の本作は2015年発表の1stアルバムがTOPSHELFから再発。後の代表作へと連なる原点的作品でありながら、その時点ですでに独自の音響美学が高い完成度で提示されている点に、本作の特異性が見出せます。繊細なピッキングやストローク、そして泡立つようなグリッチに加え、サンプリングやフィールドレコーディング、デジタル編集を駆使したコラージュ的手法によって構築されたサウンドは、無数の音の断片が有機的に結びつきながら、万華鏡のように絶えず変容する音響空間を形成しています。この点においては、BOARDS OF CANADAに通じる記憶の揺らぎや、BIBIOのローファイで牧歌的な質感を想起させつつも、それらをさらに解体し、より流動的かつ非線形な構造へと発展させた音響構築が施されています。そして、それらと同等、あるいはそれ以上に機能しているのが、強烈な印象を残すメロディーセンスとフレーズの力強さです。複雑に入り組んだ音のレイヤーの中にあっても、旋律は決して埋没することなく、むしろ断片同士を結びつける軸として作用し、聴き手の記憶に深く刻まれていきます。その高度なテクニックを単なる技巧として消費させない構成力にあります。音の配置や質感のコントロール、さらには協和と不協和の際どいせめぎ合いを通じて、崩壊寸前とも言えるバランスを保ちながら、それでもなおポップソングとして成立させてしまう感覚は極めて稀有です。その危うさと必然性が同時に成立している点に、本作の芸術性の核心があります。結果として本作は、実験性とポップネスが高い次元で拮抗しながら共存する、きわめてユニークな作品として結実しています。音響的探求とメロディーの普遍性とがせめぎ合いながらも最終的には美しさへと収斂していくそのプロセスは、現代エレクトロニカ/インディーフォークにおける重要な指標のひとつと言えるでしょう。