USペンシルベニアが生んだポストロック/マスロックのパイオニア 「DON CABALLERO」 による2000年発表の4thアルバム ”American Don” が、デラックスエディションとして TOUCH & GO より2026年再発。オリジナルアルバムに加え、同時期に極秘録音されていた未発表ライヴスタジオ音源”True Live Tapes”を追加収録した仕様となっています。本作は、マスロックという語が単なるジャンル名ではなく“方法論”として機能し始めた瞬間を刻んだ歴史的作品です。Damon Che によるポリリズムを多用した超絶ドラミング、後の BATTLES へと接続される Ian Williams のループ/反復を駆使した幾何学的ギターワーク、そして Eric Emm のフリーキーかつ流動的なベースが複雑怪奇に絡み合いながら、崩壊寸前で均衡を保つその演奏は、当時の TOUCH & GO カタログの中でも突出した異形性を放っていました。ハードコアやインディーロック文脈を越え、フリージャズやプログレッシヴロックのリスナーまで巻き込んで再評価され続けるのも頷ける、まさにマスロックの到達点です。
さらに今回の追加音源となる、初公開となる ”True Live Tapes” の衝撃的な存在です。Eric Emm の証言によれば、完成した”American Don”にはバンド内でも賛否があり、Steve Albini 録音による重厚かつ立体的なスタジオサウンドは名録音である一方、ループ主体で構築された楽曲本来の“推進力”や“生々しい速度感”が薄れてしまったという問題意識があったとのこと。そこでバンドは極秘裏に Greg Norman のスタジオへ赴き、ツアー直後の“ロードホット(加速した心理状態)”な状態で全曲をライヴ録音。その音源が25年の時を経て初めて陽の目を見ることとなりました。この追加音源では、スタジオ版よりも明らかにテンポが速く、演奏もより攻撃的で、楽曲の設計図そのものが剥き出しになっています。完成品としての”American Don”が緻密に構築された建築物だとすれば、”True Live Tapes” はその構造を砕きながら再構築するようなサウンドです。同一楽曲でありながら、スタジオ版とライヴ版でここまで印象が変わる作品は稀であり、本デラックス盤は単なる記念再発ではなく、”American Don”という作品の成立過程そのものを再検証させるアーカイブとして極めて価値の高い内容となっています。Steve Albini による硬質な録音美学と、Greg Norman が捉えた剥き出しの熱量。その両方を並列で味わえる本作は、DON CABALLERO というバンドの創造性と緊張関係、そして2000年前後のUSインディー/ポストロック最前線の空気まで封じ込めた、凄まじいの一言の再発盤です。マスロック史のみならず、ポストロック及びエクスペリメンタルロック全体の文脈においても改めてその重要性を確認させる一枚です。