三重県出身、現在はUSニューヨークを拠点に活動し、USインディーを代表するフィメールシンガーソングライターとして確固たる地位を築いてきた「Mitski」による8thアルバムが、2026年にDEAD OCEANSよりリリースされました。インディーフォークを基盤としながらも、いわゆるオルタナ〜SSW的な枠組みに単純に収めることは困難であり、本作はスロウコア的な時間感覚とミニマル/アンビエント的な音響処理、さらにはポストロック以降の“持続”を志向する構造が交差する領域に位置づけられます。こうした音像の精度を裏付ける要素として、マスタリングにBob Westonが起用されている点も見逃せません。過度な演出を排し、音の実在感と余白を重視するその美学は、本作の抑制された音響設計と強く共鳴しています。そして、それらと密接に結びついているのが、Mitskiのソングライティングとメロディーセンスです。旋律は過度に装飾されることなく、きわめてシンプルな動きの中で構築されていますが、その反復や微細な変化によって、感情の揺らぎが徐々に滲み出てくる設計となっています。いわゆるフックの強さで引き込むというよりも、旋律そのものが時間の中で持続しながら意味を変化させていく点に特徴があります。その結果、本作は“何も起こらない”という状態そのものを音楽的強度へと転化し、沈黙と持続のあわいにおいて成立する、きわめて現代的な表現として結実しています。