USニューヨークを拠点に活動するコンポーザー/実験音楽家「Ben Vida」によるアルバム “Oblivion Seekers” は、2026年にSHELTER PRESSよりリリースされた作品です。2020年代以降の彼の“言語そのものを音響化する”アプローチをさらに推し進めた内容となっており、90年代よりTOWN & COUNTRY、BIRDS OF DELAY、SINGER、PEOPLE OF THE NORTH、さらにはJOAN OF ARC周辺人脈とも交差しながら、ドローン、ミニマリズム、フリーインプロヴィゼーション、ノイズ、現代音楽を横断してきたBen Vidaの方法論が、極めて抽象度の高い地点で結実しています。本作は、2023年作 “The Beat My Head Hit” に続く作品であり、その延長線上に位置する“スポークンワードのデュエット構造”を軸に展開。抑揚を極力排したニュートラルな発声によって、言葉の“意味”と“音”の境界をゆっくりと溶かしていきます。ここで重要なのは、言語が情報伝達手段として機能する以前に、“リズム”や“響き”として空間を漂い始める点でしょう。彼は以前からRobert Ashley影響下の作品で知られていましたが、本作ではさらにMark E. Smith/THE FALL的な“言葉の引っ掛かり”、PET SHOP BOYS的スポークンワード感覚、HIP HOPにおける声のグルーヴ、さらにはMeredith Monk以降の拡張声楽的アプローチまでもが奇妙に接続されています。ただし本作は、そうした参照を単なるコラージュとして処理するのではなく、“人間は日常の中で、膨大な言語の断片をどう処理しているのか”という極めて感覚的なテーマへ還元している点が重要です。音響面では、ジャズ、ドローン、現代音楽、アンビエントの境界線を曖昧に横断しながらも、楽曲を“展開”させるというより、言葉の流れや呼吸を浮遊させるための環境として機能。微細な変化だけで持続していく構造は、ミニマルミュージックやドローン以降の時間感覚とも強く接続しています。また、本作に登場するテキスト群は、日常の中で耳にした独り言、小説の一節、記憶に残ったフレーズなど、断片的な言語から構成されています。それらは物語を形成することなく、浮かんでは消え、意味になりかけては崩れていきます。この“意味の未満状態”を維持し続ける感覚は、現在のアンビエント〜エクスペリメンタル文脈においても極めて特異でしょう。アンビエント、スポークンワード、現代音楽、ドローン、ミニマリズム、そのどれでもあり、そのどれでもない。Ben Vidaは本作で、“言葉に囲まれ過ぎた現代”そのものを、静かで奇妙な音楽へ変換しています。まるで世界中の雑音や会話が、ゆっくり瞑想へ変質していくような、異様な没入感を持った作品です。