THE APPLESEED CAST / Mare Vitalis 2xLP(BLUE/WHITE/BLACK)

USカンザス州ローレンスのエモオリジネーターでいて現在進行形バンドでもある「THE APPLESEED CAST」 の2000年にDEEP ELMよりリリースした2ndアルバム”Mare Vitalis”が2026年、25周年記念盤としてドイツのTHIRTY SOMETHING RECORDSより再発となりました。これまでも幾度か再発/ヴァイナル化はされてきましたが、いずれも少数プレスで現在は入手困難。同レーベルの20周年盤ではジャケットデザイン変更もありましたが、今回はオリジナル盤に忠実なアートワーク仕様となっており、当時の空気感を改めて追体験できる仕様となっています。THE APPLESEED CASTと言えば、後の”Low Level Owl シリーズ”における、エモアンビエント作品と言っても差し支えない領域へ到達した“エモの極北”的作品群が語られがちですが、その直前に位置する本作”Mare Vitalis”こそ、バンドが“90年代エモ”から“ポストロック以降”へ本格的に接続していく決定的転換点だったと言えるでしょう。当時のDEEP ELM周辺では、LAST DAYS OF APRIL、CROSS MY HEART、CAMBERなど、いわゆる“メロディックで繊細なエモ”が一定の支持を集めていましたが、その中でもTHE APPLESEED CASTは明らかに異質な存在でした。ミッドウェスト的叙情性を軸にしながらも、そこへポストロック、シューゲイズ、スローコアバンドに通じる空間処理感覚を導入し、“静けさそのものを推進力に変える”ようなサウンドを形成していったのです。特に本作では、後の”Low Level Owl シリーズ”ほど抽象化され切ってはいないものの、その萌芽が既に随所に現れています。クリーントーン主体のアルペジオ、ディレイを多用したギターの残響、ミニマルに反復されるフレーズ、そして楽曲全体を包み込む“余白”の感覚。それらは単なるエモ的カタルシスとは異なる、“空間そのものを聴かせる”アプローチへ確実に向かっています。また、同界隈でもあるJIMMY EAT WORLDやTHE GET UP KIDS周辺が“ポップとしてのエモ”を拡張していた時代に対し、THE APPLESEED CASTはより内省的かつ音響的方向へ進んでいた点も興味深いでしょう。本作に漂う湿度や静かな緊張感は、むしろRED HOUSE PAINTERS、BEDHEAD、IDAHO、MOGWAI、LOWといったスローコア文脈とも共鳴した作品として極めて重要です。さらに重要なのが、当時のエモバンド周辺を象徴する存在でもあったEd Roseのプロダクションでしょう。彼特有の、過剰に磨き込み過ぎない有機的な質感、適度に空気を含んだドラムサウンド、ギターの残響処理は、本作のアトモスフェリックな世界観を決定付けています。2000年前後のエモシーン特有の“乾いたのに感情的”なサウンドスケープは、本作においてひとつの完成形へ到達したと言っても過言ではないでしょう。そして何より、本作が20年以上経った現在でも全く古びて聴こえない理由は、“激情”ではなく“余韻”によって感情を描いている点にあります。音数を増やすことで高揚を生むのではなく、静寂、残響、反復、間合いによって情感を浮かび上がらせるその方法論は、現行のポストロックやシューゲイズのリスナーの耳で聴いてもなお極めて新鮮な2000年代エモ史における極めて重要な分岐点のひとつといえる大名盤です。
  • Label:THIRTY SOMETHING
  • Price:7,480
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