USニューヨークを拠点に活動するシンガーソングライター 「Nina Nastasia」 が2006年にFAT CATからリリースされた4thアルバム”On Leaving”が、2026年の20周年を記念して TEMPORARY RESIDENCE からリマスター再発。”On Leaving”は、多くのリスナーや批評家からNina Nastasiaの最高傑作として挙げられる作品です。録音は長年の盟友 Steve Albini がシカゴのELECTRICAL AUDIOで担当。派手な演出や過剰な装飾を徹底して排したサウンドの中で、Nina Nastasiaの歌声と楽曲そのものが圧倒的な存在感を放っています。Nina Nastasiaの最大の魅力は、その唯一無二の歌声にあります。儚さと強さ、親密さと緊張感を同時に宿したその歌は、ときに息を呑むほど繊細に、ときに感情を抑えきれないほど切実に響きます。英国の音楽誌 MOJO が「部屋の空気を吸い尽くすようだ」と評したように、その声は聴き手を楽曲の内側へと引き込み、静かな楽曲の中に強烈な没入感を生み出します。本作に収められた楽曲群は、アコースティックギターを中心とした極めて簡素な編成でありながら、張り詰めた緊張感に満ちています。別れや喪失、孤独、痛みといった感情が全編を覆い、静かに燃え続ける熾火のような熱量を宿しています。感情を声高に叫ぶことなく、それでも圧倒的な切実さを伝えるその表現は、同時代の Will Oldham、Mark Kozelek、Jason Molina とも共鳴しながら、よりパーソナルで内省的な領域へと踏み込んでいます。また本作は、2000年代アメリカンインディーを代表する人脈の結節点としても興味深い作品です。Steve Albiniによる生々しい録音、後の作品でも重要な役割を果たす Jim White 周辺との繋がり、そしてRED HOUSE PAINTERSやSUN KIL MOONの流れとも共鳴する孤独なソングライティング。フォーク、インディーロック、チェンバーミュージックの境界を静かに横断しながら、どのジャンルにも完全には属さない独自の世界を築き上げています。リリース当時から高い評価を獲得していましたが、その価値はむしろ時代を経るごとに増していると言えるでしょう。後年の Joanna Newsom、Sharon Van Etten、Jessica Pratt、Grouper といったアーティストを愛するリスナーにも通じる、静寂と感情の深さを兼ね備えた作品です。”On Leaving”は、音数を削ぎ落とすことでしか到達できない美しさを宿した傑作です。20年近い歳月を経た今なお色褪せることなく、Nina Nastasiaという稀有なソングライターの才能を最も鮮やかに刻み込んだ作品として輝き続けています。今回の再発は、その静かな傑作を改めて体験する絶好の機会と言えるでしょう。