言わずと知れたUKアンダーグラウンド史における最重要作品のひとつ、「THIS HEAT」が1979年に発表した1stアルバムが2026年にSUPERIOR VIADUCTより再発。ポストパンクの文脈で語られることの多い作品ですが、現在の耳で聴くなら、むしろポストロックやマスロックの源流として捉える方がしっくりくるかもしれません。実際、90年代以降のSLINT、DON CABALLERO、BIG BLACK、SHELLAC、TORTOISE、BATTLES、TRANS AM、90 DAY MENといったアメリカンアンダーグラウンドの重要バンド群が提示した「反復」「緊張感の持続」「音響そのものを楽曲構造に組み込む」という発想は、すでに今作の時点で驚くほど高い完成度で実践されています。彼らはパンク以降のロックが向かうべき未来を、誰よりも早く見ていたバンドでした。リフやメロディを中心に楽曲を組み立てるのではなく、リズムのズレや反復、ノイズ、テープループ、空間処理そのものを楽曲の骨格として機能させる手法は、ダブやテクノ、インダストリアルミュージックへの影響はもちろん、後のポストロックやマスロックの方法論そのもの。変拍子を駆使しながらも技巧を誇示することなく、常に楽曲全体の緊張感へと還元していく姿勢にも、後続への多大な影響を感じずにはいられません。録音は彼ら自身が運営したCold Storage Studioで実施。デジタル編集など存在しない時代に、限られた機材と膨大な試行錯誤によって構築された音像は、むしろ現代のDAW環境では再現困難な独特の生々しさと危うさを宿しています。音楽というより実験そのものが記録されているような感覚。しかし決して難解なアート作品ではなく、そこには異様なグルーヴと肉体性が存在しています。ポストロックやマスロックという言葉や概念が生まれる20年近く前に、その構造的発想を提示していた怪物的作品。今作を聴くと、多くの90年代以降のオルタナティブミュージックが、実はこの地点から枝分かれしていったことに気付かされます。歴史的名盤という評価を超えて、今なお未来の音として響く一枚です。