USノースカロライナ州アッシュビルを拠点に活動し、マスロック/アヴァンギャルドギターシーン屈指の異才として知られる”AHLEUCHATISTAS”のギタリスト、「Shane Parish」による異色のカバーアルバムが2026年、PALIALIAからリリース。タイトル通り、90年代テクノ/エレクトロニックミュージックの孤高”AUTECHRE”の楽曲群を、フィンガースタイルギターのみで再構築した作品です。一見すると成立し得ない企画に思えるかもしれません。複雑怪奇なプログラミング、解読不能なリズム構造、機械ならではの音響処理によって成り立つAUTECHREの音楽と、たった一本のアコースティックギター。しかし本作を聴くと、その両者が驚くほど近い場所で繋がっていたことに気付かされます。Shane Parishは2000年代以降のマスロック/アヴァンギャルドシーンにおいて重要な存在であるAHLEUCHATISTASの中心人物として活動し、DON CABALLERO、HELLA、TERA MELOS、RUINSにも通じる複雑なポリリズムや構築的アンサンブルを長年追求してきました。その一方でジャズ、ブルース、フォークの素養を持つ卓越したフィンガースタイル奏者でもあり、近年はOrnette Coleman、Charles Mingus、Alice Coltrane、John Cage、MINUTEMEN、KRAFTWERK、APHEX TWINなどの楽曲を独自解釈で再構築する活動でも高い評価を獲得しています。本作で取り上げられているのは”Incunabula””Amber””Tri Repetae””LP5”といった90年代AUTECHRE黄金期の楽曲群。Shaneは原曲の音色やプログラミングをなぞるのではなく、その奥に存在する旋律や構造そのものを抽出し、ギター1本で再定義しています。特に"Slip"や"Bike"ではAUTECHREが持つ叙情性が浮かび上がり、"Eutow"や"Clipper"では原曲の機械的な反復がどこかJohn FAaheyを思わせるアメリカーナへと変貌します。この作品が単なるカバーアルバムではなく、AUTECHREとAHLEUCHATISTASが実は同じ問題意識を共有していたことを証明している点でしょう。複雑なリズムを扱いながらも技巧を誇示するのではなく、構造そのものを音楽として成立させること。反復と変化のバランスを追求すること。音色ではなくアイデアそのものを聴かせること。その意味で本作は電子音楽をアコースティックに翻訳した作品というより、90年代IDMとマスロックの隠れた共通言語を掘り起こした作品と言えるかもしれません。AUTECHREファンはもちろん、1990年代後期/2000年代初頭のマスロックバンド、TORTOISE周辺のリスナーにも強く推薦したい一枚。電子音楽史とマスロック史が思いがけない形で交差する、2020年代ならではの傑作です。