USカリフォルニア州パームデザートで1993年に結成されたポストハードコア/ノイズロックバンド LOWERCASE。1994年から1998年にかけて発表された初期7インチやシングル音源をまとめた編集盤 ”Asides and Besides”が、2026年、REPEATERより初のヴァイナル化。荒々しいデュオ編成から、より深く陰鬱なポストハードコアへと変貌していく過程を刻んだ全11曲を収録しています。最初の7インチは、UNWOUNDのVern Rumseyが運営していた PUNK IN MY VITAMINS からリリース。その後は AMPHETAMINE REPTILE、KILL ROCK STARS など、90年代USアンダーグラウンドを象徴する名門レーベルから作品を発表。本作には、1994年のデビュー7インチ収録曲「Sometimes I Feel Like A Vampire」「Surefire Solvent」をはじめ、AMPHETAMINE REPTILEから発表された「Cadence」「No. 6 Arc」、X-MASからの「Brass Tacks」「Star 80」「Sixteen Million Miles」、KILL ROCK STARSからの「The Open Sea」「Don't Cry No Tears」などを収録。初期の切迫した衝動から、反復と空間を強調した重く陰鬱なサウンドへと変化していくLOWERCASEの軌跡を、ほぼ時系列で辿ることのできる内容です。乾いたギターの単音リフ、突然切断されるようなリズム、不穏なフィードバック、そして崩れ落ちる寸前まで感情を抑え込んだヴォーカル。SLINTの静寂と緊張感をさらに荒々しく増幅し、UNWOUNDのねじれたポストハードコアをより内向的で孤独な方向へ押し進めたようなサウンドが展開されます。しかし、その音楽は単なる両者の中間ではありません。SONIC YOUTH的な不協和音、AMPHETAMINE REPTILE周辺のノイズロックが持つ重量感、さらにSLOWCOREにも通じる極端な「間」の感覚が同居し、静かな場面にすら常に破裂寸前の緊張感が張り詰めています。特に初期音源では、ベースレスという編成が弱点ではなく、音楽を異様なまでに巨大に感じさせる要素として機能。ギターはコードの隙間からノイズと倍音を噴き出し、ドラムは単にリズムを支えるのではなく、ギターと対等な存在として楽曲を牽引します。反復される簡素なフレーズは次第に輪郭を失い、焦燥、倦怠、怒りが混ざり合った巨大なうねりへと変化。派手な速さや複雑さに頼ることなく、同じリフを執拗に反復することで聴き手を追い詰めていく手法は、後のアルバム群で完成するLOWERCASE独自の美学へと直結しています。中盤以降ではベースが加わり、サウンドの重心はさらに低下。「The Open Sea」や「Don't Cry No Tears」では、初期の剥き出しの衝動を残しながら、長い反復、広い空間、緩慢なテンポによって、より深く沈み込むような音像を構築。静寂は安らぎではなく、次の爆発を予感させる不穏な空白として存在し、音数が少なくなるほど緊張感は高まっていきます。この"鳴っていない部分"まで楽曲の一部として成立させる感覚こそ、LOWERCASEがSLINTやUNWOUNDと比較されながらも、唯一無二の存在として語られる理由でしょう。90年代USポストハードコア/ノイズロックの空白を埋める、単なるオブスキュアという言葉では片付けられない重要作品。限定500枚。